「特集:ジャンゴたち!」にあわせて、これだけは見るべし!! ジャンゴ映画6本を解説 [前編]
2023.06.24![「特集:ジャンゴたち!」にあわせて、これだけは見るべし!! ジャンゴ映画6本を解説 [前編]](https://www.bs10.jp/wp-content/uploads/2023/07/399dbfa7-b260-4358-b897-3ee00c864f1e.webp)
ドラマ『ジャンゴ ザ・シリーズ』独占日本初放送にあわせて、この夏、ドラマではなく映画の“ジャンゴ”も満を持して特集放送。玉石混交あまたある“ジャンゴ”映画の中でも、まず見ておくべき作品はどれか!? 我々スターチャンネルは、マカロニ・ウエスタン研究家のセルジオ石熊氏にラインナップ策定に協力をいただいた。そしていよいよ、放送迫る今、セルジオ石熊氏みずからが推薦作を解説する映画コラムの第1弾、7月放送分をお届けしよう!
■逆襲大マカロニ・ウエスタン
マカロニ・ウエスタンは逆襲する――親兄弟を殺され、恋人を犯され、悪人に撃たれ、拷問され、傷ついた主人公が立ち上がり、最後に敵をなぎ倒す。それがマカロニ・ウエスタン(イタリア製西部劇)の神髄だ。御本家ハリウッド西部劇でも同じような話はいっぱいあるが、どれも肝心の部分はボカされゴマかされセリフで処理されていた。もちろん子供の教育のためだ(映画業界には性や暴力描写にはキリスト教に則った規制が設けられていた)。
実はヨーロッパでは、マカロニ・ウエスタン誕生前から西部劇が作られていた。1960年代初めにはイギリスやドイツの映画人がスペインや旧ユーゴスラヴィアで西部劇を作っていて、イタリア人より早かった。が、黒澤明監督・三船敏郎主演の日本映画『用心棒』[1961]を下敷きにして、セルジオ・レオーネがクリント・イーストウッドを主演にスペインで撮った西部劇『荒野の用心棒』[1964]が大ヒットし、イタリア映画人中心のマカロニ・ウエスタンがヨーロッパ製西部劇の主流になる。
『荒野の用心棒』で、拷問され血だらけボロボロになったイーストウッドがしぶとく復活し、逆転サヨナラの逆襲劇を完成させるクライマックスは大喝采。ダイナマイトが爆発する派手なレオーネ演出、トランペットが鳴り響く決闘音楽(エンニオ・モリコーネ)も最高だった。『用心棒』も『荒野の用心棒』も、主人公はどこからともなくやって来る流れ者、敵のラスボスは自信満々の腕自慢。「三船敏郎=刀」VS「仲代達矢=銃」だった日本版に対して、マカロニは「イーストウッド=銃」VS「ジャン=マリア・ヴォロンテ=ライフル」と、いずれも武器力では劣っているはずの主人公が、知恵と度胸で難敵を倒す。これがマカロニ・ウエスタンの基本となった。
イタリアならではの衣装や革製品など小道具の美しさも、忘れてはならない(以前のビデオソフトなどに比べて、昨今のデジタルリマスター版を大画面で見ると最高に楽しめる)。マカロニは「粋(イキ)」だったのだ。派手な色のヒゲが特徴のペンギンが「マカロニペンギン」と名付けられたように、本来「マカロニ」には「キザで粋」の意味がある。日本でイタリア製西部劇を「マカロニ・ウエスタン」と呼ぶようになったのも偶然にしても、なかなか感慨深い。マカロニ・トリビアとしては有名すぎるネタが、「マカロニ・ウエスタン」は日本だけの呼び方で、欧米では「スパゲティ・ウエスタン」がある。いずれもチープなイタリア飯のような西部劇としてバカにした呼称だったのだが、その後は、『バック・トゥ・ザ・フューチャー PART3』[1999]を経て、クリント・イーストウッドやマカロニ・ファンのクエンティン・タランティーノがアカデミー賞を受賞、すっかりハリウッドも認める存在となり、マカロニ・ウエスタンは世界の西部劇の主流となった。
■指を潰された男の逆襲~『続 荒野の用心棒』
『続・荒野の用心棒』――いわずと知れた「ジャンゴ(原題DJANGO)」である。1965年から1966年にかけての冬に撮影された。監督はセルジオ・コルブッチ。助監督仲間のセルジオ・レオーネより1学年上で、性格が明るく仕事が早いコルブッチは、イタリア映画界で早く出世していた。1950年代末から監督を務めるようになり、イタリアの国民的人気喜劇俳優トトに気に入られ、1961年にはローマ建国の英雄を描いた史劇『逆襲!大平原』で西部劇のようなアクション・シーンを見せた。『荒野の用心棒』の前年に、旧ユーゴスラヴィアで西部劇『グランド・キャニオンの大虐殺』[1963]を、レオーネと同時期に盲目のガンマンが無実の罪を晴らす『ミネソタ無頼』[1964]を撮っていた(実はコルブッチは助監督時代に撮影中の事故で片目を失明している)。
『続・荒野の用心棒』[1966]は、プロデューサーから急遽頼まれた仕事で予算も少なかった。レオーネが黒澤明の『用心棒』を翻案して大成功していたことから、コルブッチは“俺流”西部劇版『用心棒』を作ることにした。そもそも、レオーネが『用心棒』を見るきっかけは、ローマの映画館で見たカメラマンのエンツォ・バルボーニが「凄い映画がある」と言い出したからで、コルブッチ、レオーネはじめドゥッチオ・テッサリ、マリオ・カイアーノ、セルジオ・ドナティ、トニーノ・ヴァレリなど、当時若かった助監督や脚本家の仲間たちと『用心棒』を西部劇に翻案するアイディアを夜通し語り合っていたのだ。
ところが、レオーネはバルボーニではなく別のカメラマンと組んで『荒野の用心棒』を撮ってしまった(ジャック・ダルマスことマッシモ・ダラマーノ)。コルブッチは最初の“発見者”を尊重し、仁義を通してエンツォ・バルボーニにカメラを任せたのだ(バルボーニはのちに、E.B.クラッチャーの名で『風来坊/花と夕陽とライフルと… 』[1971]を放ち、レオーネの『夕陽のガンマン』[1965]が保持していたイタリア映画界興行収入ナンバー1の座を奪って見せることになる)。
流れ者がさびれた街へやってきて、2つの悪人集団と戦う……おおまかなストーリーは『用心棒』『荒野の用心棒』と同じだ。制作会社は違うのだが、日本では、たまたま配給会社が同じだったので『続・荒野の用心棒』と名付けられた。『荒野の用心棒』は勝手なリメイクだと黒澤明と脚本家に訴えられた(後に和解)が、『続・荒野の用心棒』はおとがめなし。もちろん、コルブッチは本家とはまるで違う強烈な味付けを施していた。
「ジャンゴ」のキャラクター名はジプシー(ロマ)出身のジャズギタリスト、ジャンゴ・ラインハルトからとられている。共同脚本家のひとりフランコ・ロゼッティによれば「脚本の修正を頼みたいと言われてコルブッチに会うと、主人公が棺桶を引きずって登場すること以外何も決まっていなかった。修正仕事といったのはギャラをケチるための作戦だったんだ(笑)。ちょうど彼にラインハルトのレコードを貸していて返してほしかったんで、主人公はジャンゴでどうだ、と言ってみた」
ジャンゴ・ラインハルトは左手に火傷して指2本が不自由だったにもかかわらず、超絶技巧のギタリストとして知られていた。そこで、コルブッチは「指を潰された男が逆襲する映画」にする。こうして、キャラクター名と映画の最初と最後は決まった。
そして何人もの候補の中からコルブッチ夫人が気に入った青い目をした(スタントもできる)若い俳優フランコ・ネロが主役に抜擢され、撮影されたのが『続・荒野の用心棒』だ。
雨に濡れた荒野、泥だらけの町を舞台にしたのは黒澤の『羅生門』[1950]を意識したコルブッチのアイディアだったが、白人ガンマンがまるで「KKK」団のような赤いマスクを被っているのは、助監督ルッジェロ・デオダート(後に『食人族』[1980])のアイディアだ。神父の耳を切り取って食わせるという極悪非道な描写は、コルブッチ夫妻の離婚危機までに発展し(何とかよりを戻したそう)、イタリアでは公開時にカットされ、イギリスでは『続・荒野の用心棒』は上映禁止になった(1980年代に復権した)。
コルブッチ本人は「これは労働者や若者たちのための映画だ」と言っていたという。不正、権力濫用、差別に抗う人々の気持ちを代弁したのが、指を潰された主人公ジャンゴだったのだ。
■ジャンゴが先か、リンゴが先か?~『復讐のジャンゴ・岩山の決闘』
ジャンゴ=『続・荒野の用心棒』は、ドイツをはじめヨーロッパ各国で大ヒットを記録し、ジャンゴの名は独り歩きを始めた。特に西ドイツではフランコ・ネロ主演作品はことごとく「ジャンゴ」のタイトルをつけられることになる。コルブッチは続編の依頼をあっさり断ったので、フランコ・ロゼッティは『続・荒野の用心棒』のプロデューサーの依頼で『殺しのジャンゴ/復讐の機関砲(ガトリングガン)』[1968]の脚本を書き、ネロにそっくりな若者テレンス・ヒルがジャンゴを演じた。さらに、関係ないのにジャンゴになったマカロニ俳優が続出した。
『復讐のジャンゴ・岩山の決闘』[1967]=グレン・サクソン、『待つなジャンゴ引き金を引け』[1968]=ショーン・トッド、『ジャンゴ対サルタナ』[1968]=トニー・ケンドール、『ジャンゴの息子<未>』[1969]=ガイ・マディソン、『ジャンゴ・ザ・バスタード』[1969]『復讐のガンマン・ジャンゴ』[1971]=アンソニー・ステファン、『ジャンゴとサルタナ<未>』[1970]=ハント・パワーズなどなど。
ジャンゴなんて出てこないのに『情無用のジャンゴ』[1967]や『血斗のジャンゴ』[1967]もあった。
なかでも、本家「ジャンゴ」の数か月後に世に出た“パチモン・ジャンゴ”物の嚆矢が『復讐のジャンゴ・岩山の決闘』だ。演じたのはオランダ出身のグレン・サクソン。体格のいい金髪のハンサムボーイ、アメリカの高校ならアメフト部にいそうなタイプだ。監督は『荒野の10万ドル』[1966]や007のパロディ『ドクター・コネリー/キッドブラザー作戦』[1967]のアルベルト・デ・マルチーノ。日本題『復讐のジャンゴ・岩山の決闘』はいかにも三流だが(テレビ放映時につけられたタイトルなので仕方ないか)、軽快な演出、キャラの立った登場人物、テクニカラー・テクニスコープの横長画面を活かした凝った画面構成、そして二転三転する工夫に満ちた脚本で、意外なほど(失礼)楽しめる快作西部劇だ。
冒頭、荒野で豆煮を食べているジャンゴにあっさり殺される賞金稼ぎの名が「リンゴ」でまずマカロニ・ファンにウケるのだが、よく見ると演じているのがコルブッチの『ミネソタ無頼』やジュリアーノ・ジェンマ主演の“リンゴ”シリーズ『夕陽の用心棒』[1964]など、スペインで撮影されたマカロニでよく見るひ弱そうなスペイン人ホセ・マヌエル・マルティンなのには爆笑。同じく『夕陽の用心棒』や『南から来た用心棒』[1966]の悪役でおなじみの巨漢フェルナンド・サンチョがジャンゴを助ける気のいいデブ男を演じている。さらに、マカロニ界の名花イヴリン・スチュワート、エリカ・ブランがジャンゴを争って殴り合い……とマカロニ・ファンには見どころがいっぱいだ。
ん、待てよ? でもどこがいったいジャンゴなんだ? と不思議に思ったが、そのうちわかって来る。これは、どちらかといえば『夕陽の用心棒』『南から来た用心棒』のジェンマ映画、すなわち明るく楽しい“リンゴ”ものマカロニ・ウエスタンを狙って企画されたのだが、何かの都合でジェンマが出られなくなって、代わりに連れてきた主役グレン・サクソンがどことなくジャンゴに似てるので、「よし、ジャンゴにしよう!」となったに違いない(勝手な想像ですが)。劇中、主人公は本名を名乗って登場するが、「ジャンゴじゃないか」と言われ、「メキシコではね」とサラっと受け流す。いかにも、吹替時に変更したようなとってつけた展開だ(マカロニは絵・音の同録ではなく、セリフは後からアフレコしていたのだ)。
それでも、とにかくいち早く「ジャンゴ」ブームに乗ったこと(原題は「ジャンゴは先に撃つ!」)、そしてコルブッチ作品には欠かせない要素である墓場の場面が重要に使われているのは大変よろしい。できれば副題だけでも「墓場の決斗」にしてほしかった。
■ジャンゴ×マンディンゴ=ジャンディンゴならぬ『ジャンゴ 繋がれざる者』
本家「ジャンゴ」=『続 荒野の用心棒』から40年後、本家の元祖『用心棒』が誕生した日の出る国・日本で、もうひとつの“ジャンゴ”が生まれた。三池崇史監督の『スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ』[2007]は、平家と源氏の末裔ギャングの抗争に流れ者(ジャンゴとは名乗らない)が絡むという、本家に似てるような気もするが全然似てない、“スキヤキ”というより“ごった煮”(あるいはロケ地山形で人気の芋煮か)ウエスタンで評価も興行も振るわず、同時期に韓国から放たれた満州を舞台にしたキムチ・ウエスタン『グッド・バッド・ウィアード』[2008]に軍配が挙がった(題名はレオーネの『続・夕陽のガンマン/地獄の決斗』の英語題名に由来)。
が、『スキヤキ~』は映画史に残る重大な置き土産を残すことになる。三池崇史監督は映画祭などで知り合っていたクエンティン・タランティーノに特別出演を依頼、ちょうど『デス・プルーフ in グラインドハウス』[2007]を完成させたところだったタランティーノは快諾し、さっそく東京へ飛んできた。荒野でなぜか(豆煮ではなく)スキヤキを食べているガンマン役のタランティーノは、箸で「豆をつまむ」特訓&役作りを経て見事に演じ終えると、日本で発売されていたマカロニ・ウエスタンのDVDを大量に入手して帰国したのだった(DVDを手配したのは、かくいう筆者)。
タランティーノは『スキヤキ~』に欠けていたいた、本家「ジャンゴ」=『続・荒野の用心棒』の重要なテーマを再認識したに違いない。「不正や権力や差別に抗う人々の気持ちを代弁する」ことこそが、ジャンゴの役目である。
かつて、キネマ旬報誌に「本場もの顔まけの残酷西部劇」と『続・荒野の用心棒』を評する記事が載った。耳を切り取り、両手指を潰す「ジャンゴ」=『続・荒野の用心棒』は、当初日本では残酷西部劇と呼ばれたのだが、その前にイタリアには、『世界残酷物語』[1961]などヤコペッティをはじめとする残酷ドキュメントの歴史があったのだ。特に『ヤコペッティの残酷大陸』[1971]はドキュメンタリーに見せかけたドキュ・ドラマで、アメリカへ連れてこられた黒人奴隷たちの悲惨な実態が描かれた。アメリカでも1975年になって南北戦争前の黒人奴隷牧場を舞台にしたドラマ『マンディンゴ』が作られた。
クエンティン・タランティーノは、「ジャンゴ」=『続・荒野の用心棒』に『マンディンゴ』をかけ合わせ、オープニング&主題歌は本家そのまま、セルジオ・コルブッチへのオマージュを捧げつつ、「人種差別に抗う人々の気持ちを代弁する」アクション西部劇として『ジャンゴ 繋がれざる者』[2012]を作ったのだ。妻を愛する男である本家ジャンゴ(妻の墓と一緒に敵を倒すのだ!)の隠れテーマも見事に表舞台に格上げされ、女性観客の心も打った。ジャンゴの妻が『荒野の1ドル銀貨』[1965]のイヴリン・スチュワートを思わせる衣装をまとっていたのも気が利いていた。
もちろん、タランティーノ監督が事前に東京・新宿の某映画ショップで大量のマカロニ・ウエスタン・サントラCDを購入し、挿入曲を選んだのは言うまでもない。『ジャンゴ 繋がれざる者』は世界中で大ヒットし、東京・渋谷区の某ホテルで書き始めた脚本は、見事アカデミー脚本賞を獲得した。
見逃しちゃいけないのが、元祖ジャンゴ=フランコ・ネロの特別出演場面だ。「ジャンゴ」の発音について教授してくれるので、しっかり見よう。ネロはスターチャンネル独占放送のテレビ・ミニシリーズ『ジャンゴ ザ・シリーズ』[2022]にも渋い役で特出していた。『続・荒野の用心棒』出演時は24歳、齢80を越えて、まだまだ元気なジャンゴ=フランコ・ネロよ、永遠なれ。
Profile : セルジオ石熊
小学生のときに『荒野の1ドル銀貨』『唇からナイフ』の2本立を映画館で見て以来の映画ファンにしてマカロニ・ウエスタン研究家。DVD-BOXシリーズ「マカロニ・ウエスタン・バイブル」(IMAGICA)でマカロニ関係者インタビュー取材を担当。共著・編書に「エンニオ・モリコーネ映画大全」「百発百中! ウェスタン映画入門! 」「クリント・イーストウッド ポスター大全」「三船敏郎映画大全」「アメリカン・ニューシネマの世界 特集バニシング・ポイント」など。
放送で観るなら
『ジャンゴ ザ・シリーズ』放送記念 特集:ジャンゴたち!PART2
BS10「スターチャンネル」にて8/18(金)ほか放送予定
詳しい放送情報は>>
ドラマ『ジャンゴ ザ・シリーズ』
詳細、放送はこちら>>
配信で観るなら
Amazon Prime Video チャンネル「スターチャンネルEX」にて順次配信中
『続・荒野の用心棒』を観る
『ジャンゴ 繋がれざる者』を観る
『復讐のジャンゴ・岩山の決闘』を観る
『情無用のジャンゴ』(8月10日配信)
『待つなジャンゴ引き金を引け』(8月10日配信)
『ジャンゴ対サルタナ』(8月10日配信)
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